肺がん部門
日進月歩で進歩し続ける医療分野の中で、がん薬物療法は最もエキサイティングな領域であると言っても過言ではありません。特に肺がんは薬物療法における発展が著しいがんの1つです。近年の分子標的治療薬剤や免疫チェックポイント阻害剤、抗体薬物複合体 (ADC)の登場により、適切な診断・治療を提供することで、進行肺がんの患者さんでも生存期間の大幅な延長を実現することが可能となってきました。
第三内科肺がん部門では、患者さんへの質の高い診療の提供はもちろんのこと、将来の肺がんの治療成績向上を目指して、ベッドサイドからベンチ、さらにもう一度ベッドサイドへという臨床に根差した研究を実施しており、大きく分けて以下の3つの取り組みを行っております。
- 1)新規治療法確立のための臨床試験の実施
- 2)正確で早期のがん診断を目指した新規診断方法の開発
- 3)新規肺がん治療法開発のための基礎研究
1)については、JCOG、WJOG等の臨床試験グループに参加し、新規治療法の確立に貢献するとともに、新薬の治験に積極的に取り組むことで患者さんへのより多くの治療選択肢の提供を目指しております。2)については、血液を用いた診断法の確立に取り組んでおり、血液中に存在するがん細胞の検出およびがん細胞由来のDNAを用いた診断法の実現に取り組んでおります。3)のがんの基礎研究においては、臨床試験の立案・実施のための薬剤を用いての前臨床研究や新規の治療標的の探索研究を行っております。また、患者検体を用いた次世代シーケンサーによる遺伝子変異解析を行っており、個々の患者さんの遺伝子異常を解析し、将来的に最適な治療を提供するための研究を行っております。
最後に、第三内科肺がん部門チームは和歌山から世界へ向けてのエビデンスの発信を目指して診療及び研究に取り組んでいます。そして、当科にて研修を受けられる若い医師に対する我々の使命は、日本のみならず世界で通用する、将来のがん医療向上に貢献できる腫瘍内科医を育てることにあります。我々とマインドを共有していただける方であればどなたでも歓迎いたします。薬物治療の進歩が著しいと前述しましたが、肺がんの治療成績にはまだまだ向上の余地があります。是非、我々と一緒にがん医療の向上を目指して、明るく楽しく頑張りましょう。
閉塞性肺疾患部門
COPDと気管支喘息の研究を中心に行なっています。
2020年に発表されたWHO統計によれば、COPDは心疾患、脳卒中に続き世界で第3位の死亡原因です。しかし、病態生理の解明や治療法の開発に向けては、さらなる研究が必要な疾患です。COPD患者の特徴的な症状は体動時の呼吸困難ですが、“息切れ”を避けるため日常生活での活動量が少なくなります。身体活動性が低下することで、心疾患、糖尿病、うつ病などの併存疾患が増加し、“やせ”が進行します。悪液質に伴う全身状態の悪化は、増悪や死亡のリスクを高めることになります。
我々の研究グループは、日常活動レベルの向上がCOPDの疾患予後を改善すると考え、臨床研究を進めています。具体的には、3軸加速度計を用いた客観的な身体活動性の評価法を確立し、日本人のCOPD患者で身体活動性が低下していることを検証しました。また、COPD患者の日常活動レベルを一般臨床で簡便に評価するスケールの開発にも取り組んでいます。さらに、薬物療法と呼吸リハビリテーションを組み合わせた積極的治療の有効性の検討などの臨床研究を行なっています。
気管支喘息は気道の慢性炎症性疾患であることが明らかとなり、吸入ステロイド薬など抗炎症治療の普及によって死亡率は大きく低下しました。しかし、約70%の喘息患者ではコントロールが十分ではなく、日常的な喘息症状の出現や増悪が認められます。
気道炎症と気道過敏性は喘息に特徴的な病態で主たる治療標的ですが、患者に負担なく、反復して評価することは困難でした。我々の研究グループは、気道過敏性検査に代用可能な過敏性の生理学的指標や、呼気凝縮液(安静換気時の呼気を冷却し採取したもの)や呼気一酸化窒素濃度を検体とする非侵襲的な気道炎症評価方法を、喘息の診断や治療に応用する研究を行なってきました。また、将来の増悪や呼吸機能の急速な低下をいかに予測し、抑止するかを重要なテーマと捉え、研究を進めています。
これらのCOPDや喘息を対象とする臨床研究は、大学病院と関連基幹病院との共同で行われることが多いため、関連病院において豊富な臨床経験を積みながら、主たる研究者として研究に参加し、医学博士の学位取得を目指すことが可能です。
感染症部門
呼吸器系は様々な病原微生物の感染経路となるため感染症に強い診療科の一つと言えます。呼吸器内科では定型肺炎、非定型肺炎、肺結核、非結核性抗酸菌症、肺真菌症、ウイルス性肺炎などの診療を主に行います。特に2019年から世界を席巻したCOVID-19感染に対しても、院内における診療の中心となって対応に当たりました。現在はCOVID-19感染が落ち着いている時期もありますが、感染の波が次いつ生じるかは予測不能であり、新たな病原体による感染症も起こりえます。院内の感染制御部とも連携して感染症に取り組んでまいります。
呼吸器内視鏡診断部門
呼吸器内視鏡では新たな技術導入が臨床現場でも進んでおり、以前と比較して呼吸器内科の守備範囲は広くなりました。また悪性腫瘍ではゲノム医療が盛んになってきておりますが、遺伝子検査には良質な検体採取が不可欠であり、呼吸器内視鏡の位置づけも益々重要になってきています。
臨床面では、現在当科としては従来の気管支鏡検査に加え、①超音波内視鏡、②仮想気管支ナビゲーションシステム、③迅速細胞診(rapid on-site cytologic evaluation ;ROSE) ④検査前後カンファレンスを積極的に導入し、診断率向上を目指しております。詳細は以下のとおりです。
- 1.超音波内視鏡としては、肺末梢病変に関してはEBUS-GS、縦隔肺門病変ではEBUS-TBNAを積極的に用いて、確定診断や病期診断向上に役立てています。
- 2.仮想気管支ナビゲーションシステムとしてはBf-NAVIを用いて、事前に作成しておいた3次元の仮想気管支鏡画像による対象部位の経路表示に従い、標的病変へのスムーズなアプローチが可能となっています。
- 3.迅速細胞診(rapid on-site cytologic evaluation ;ROSE)では、細胞検査士による迅速細胞診を行い、良質な検体採取に努めています。
- 4.週1回気管支鏡カンファレンスにて、病変に対するアプローチ法を事前に確認し、週3回気管支鏡を実施しています。さらに気管支鏡カンファレンスでは、検査結果に対する治療方針も併せて討議しています。
研究面においては、分子標的薬選択や創薬のための遺伝子検索や呼吸器内視鏡の診断率向上のための新たなアプローチ法の開発に関する研究を目指していきたいと考えています。 臨床面、研究面とも、これから重要な位置づけになってくる呼吸器内視鏡グループで、一緒に働いてくれる人、大歓迎です。
腫瘍センター化学療法部門
がん薬物療法の標準治療の実践、質の向上を目指して
腫瘍センター化学療法部門は、がん薬物治療を専門とする中央部門であり、科学的根拠(エビデンス)に基づいた標準治療を実践し、それらの普及と進歩に貢献することを理念とし、最高水準の化学療法を提供できる医師をはじめとした医療従事者の育成や、がん薬物療法の研究や臨床試験を進め発展・普及させることなどを基本方針としています。
外来化学療法センター(室)では、専任の医師、看護師、薬剤師が配置され、各臓器を専門とする診療科と連携を取りながら、全てのがんを対象とした治療を行っています。